第11回消化管先進画像診断研究会、大盛況のもと開催

2017.09.20
池原貴志子氏
平山眞章氏
齊藤和夫氏
橋本真一氏
松本啓志氏
高林 健氏
品川祐樹氏
佐藤哲也氏
石神雄己氏
仁枝正範氏
藤田順子氏
田中順子氏
三上 栄氏
加藤貴司氏
安田貴明氏
野崎良一氏
野津 聡氏
木島茂喜氏
前田恵理子氏
永田浩一氏
清水徳人氏
木下琢実氏
岩野晃明氏
野村美由紀氏
 第11回消化管先進画像診断研究会が9月3日(日)、広島市文化交流会館にて開催された。当番世話人は池原貴志子氏。同氏は開会にあたり「本研究会が中国地方で開催されるのは今回が初めてですので、開催を楽しみにしていました。本日の内容が明日からの皆さまの臨床にて役立てば幸いです」とあいさつを述べた。今回のテーマは「消化管画像診断の新しい風」。ワークステーションを実際に用いた経験豊富な診療放射線技師による実現や、特別講演、「大腸CT検査における女性被検者への対応とその工夫」についてのパネルディスカッションなど、112名参加のもと、充実した内容となった。

モーニングセミナー
 平山眞章氏(斗南病院)司会のもと、齊藤和夫氏(日立製作所ヘルスケアビジネスユニット)が、「拡張現実(Augmented Reality)」に関する日立の取り組みご紹介」と題し講演。工場やインフラ設備における労働災害の原因の大半はヒューマンエラーであり、このエラーの防止が重要課題となっており、AR技術は、ヘッドマウントディスプレイやタブレットを通して、作業状況に合わせた作業内容や、作業すべき計器や装置の位置等を作業者に提示することが可能。これにより、ヒューマンエラーの削減や作業品質、作業効率向上が期待できる。同社はAR技術を用いた屋内点検支援システムや、ARを用いた遠隔作業支援システムの構築によりこれらを実現している。実際の作業の流れを動画を用いて、取り組みと技術を紹介した。
 次に、「CT enteroclysis / enterography(CTE)の小腸疾患における有用性」について橋本真一氏(山口大学医学部附属病院)は、「当院では2008年より導入しバルーン内視鏡、カプセル内視鏡と同様に重要な小腸検査法の1つとなっている」と述べた。CTEは小腸を液体で拡張してCTを撮影する検査法。小腸を気体ではなく液体で充満させる利点として、内腔を適度に拡張させることができる、洗浄が可能、空気によるアーチファクトを低減できるため壁の描出を良くする点が挙げられ、粘膜面の造影効果を評価するには液体による拡張が必要であるため、CTEは有用である。小腸への液体の注入方法の違いにより、CT enteroclysisとCT enterographyがあり、前者はバルーン付きチューブを使用、後者は内服による。CTEはカプセル内視鏡などと比べ腸管外の情報も得られるため、併用することで診断能の向上が期待でき、液体の種類と内服時間を決定するのみで撮影できるため小腸二重造影と比較し撮影自体に熟練は不要など良い点もあるが、得られた所見に基づいた治療方針をどのように決定するかが今後の課題。また、CTEは撮影条件を調整することにより、得られる情報が変化するため疾患に対する知識だけでなく、治療に必要な情報が何かを見極めることが重要であると同氏は語った。

一般演題
 司会は松本啓志氏(川崎医科大学)と高林 健氏(北海道消化器科病院)。「大腸CT検査における大腸がんの深達度診断」について、品川祐樹氏(広島原爆障害対策協議会健康管理・増進センター)は検討者による深達度の正診率の違いについて報告。仮想内視鏡像、仮想注腸像、脂肪組織内CT値上昇、予測深達度の各評価者の評価結果の一致性、すなわち信頼性は高いといえ、手術所見による一致性、すなわち妥当性は高くないといえるという結果が得られた。佐藤哲也氏(愛媛県厚生連健診センター)は、同センターで実施している人間ドックにおけるCTCを紹介。学習と読影を繰り返し、常に反省しながら検査を実施し、今後は検診のみならず、大腸内視鏡へ促す橋渡しのような精密検査という位置づけで、便潜血反応陽性者の受け入れを考えていきたいと佐藤氏は述べた。石神雄己氏(済生会松阪総合病院)は「大腸CT検査腹臥位用クッションHARAGETAの使用経験」について、腹臥位撮影では被検者自身の体重により大腸を圧迫してしまうため、標準体重以上の患者に対して腹臥位撮影時、特に盲腸・上行結腸・横行結腸にHARAGETAが有用であると語り、仁枝正範氏(山陽病院)は、透析患者における腸管洗浄剤低用量分割飲用法を検討し、十分な画像・画質を得ることができたと報告した。藤田順子氏(五日市記念病院)は、大腸CT検査における6mm以上偽陰性病変について検討し、偽陰性の要因として残渣や拡張不良などの前処置や多発憩室に伴う拡張不良などが考えられるが、前処置の工夫および読影能の向上により偽陰性症例は年々減少しつつあると述べた。しかし、10mm以下の平坦型病変やLSTも偽陰性の要因となっており、これらは検討の必要があるとし、症例とともに説明した。田中順子氏(市立大津市民病院)は消化器内科医として大腸CT検査を導入した取り組みについて、導入のきっかけから、セミナーやいくつもの研究会などに参加し得た知識で導入を進めていき、現在の運用までに至った自身の経験について述べ、これから導入を検討している施設などに参考になる講演となった。三上 栄氏(神戸市立医療センター西市民病院)は診断治療に有用であった症例からみた大腸CT検査導入のメリットについて述べ、多発する大腸腫瘍の位置関係が確認できた例や内視鏡が挿入困難であった例などを挙げ、患者の負担軽減という観点からも有用であると語った。

大腸CT検査 ワークステーション(WS)に慣れ親しむ~導入初期に学ぶべきコツとピットフォール~
 加藤貴司氏(市立稚内病院)と安田貴明氏(長崎県上五島病院)が司会をつとめ、AZE社と富士フイルムメディカル社によるプレゼンと診療放射線技師による読影の実演が行われた。症例を呈示しながら学ぶべきポイントとして、①残渣・便との鑑別、②視野角の問題、③腸管拡張度が読影に及ぼす影響、④ポリープ以外の隆起性病変、⑤直腸・回盲部・平坦型病変、を解説。これらから、タギングの重要性や2D読影を必ず行うこと、直腸・回盲部・平坦型病変については形状を理解し、詳細な観察を行い、大腸CT検査の限界を知っておくことも大切であると説明された。

教育講演
 野崎良一氏(大腸肛門病センター高野病院)司会のもと、野津 聡氏(埼玉県立がんセンター)が「大腸CT検査読影認定医・読影支援技師認定制度の準備状況」について講演。大腸CT検査の診断精度は2006年以降国外の大規模な前向き研究によって検討されており、本法でも2009年から開始された多施設共同臨床試験JANCTの結果が公表され、大腸内視鏡検査とほぼ同等な感度であることが示された。さらに、大腸CT検査は注腸X線検査よりも診断精度が高く、自動露出機構や逐次近似再構成法の使用により低被ばくでの検査が可能。これらのことを踏まえ、日本消化器がん検診学会では大腸CT検査は大腸がん検診の精密検査法として十分な方法と結論づけた。2016年秋からは大腸CT検査のマニュアルとQ&Aがワーキンググループにより作成が進められている。野津氏は「3D読影時の視野角を広げればブラインドエリアは減少するが画面中央の歪みが大きくなるため表面型腫瘍などの壁変形を見落とす可能性がある」と述べ、3Dprimaryではブラインドエリアに注意して必ず2D画像を確認することが標準化内容であると説明。ほか、腸管外病変の読影や血管同定の注意などについても解説した。

特別講演
 木島茂喜氏(自治医科大学)が座長をつとめ、前田恵理子氏が「女性医師支援と遠隔診断」の題で講演。小学生の母である前田氏が育児や介護、自身の療養といった状況で生じる具体的な制約を整理し、制約がある状況でも医師としてのキャリアを磨き続けるために必要なこと、認定制度がどのように役立つかについて述べた。また、制約がある医師にとっての遠隔診療の現状や画像処理ワークステーションを要する大腸CT検査の遠隔診療普及のための課題についても検討。前田氏は「制約があってもそれに応じた時間の取り方や使い方があり、15分×90日で取得できる認定を目指すとよい」と語り、認定をとるメリットを享受する前提として大腸CT遠隔診断の普及がのぞまれると説明。また、遠隔大腸CT検査の課題としてクラウド型WSの普及やWS操作への習熟などをあげた。

パネルディスカッション
 「大腸CT検査における女性被検者への対応とその工夫」のテーマのもと、司会を永田浩一氏(国立がん研究センター 社会と健康研究センター)と池原貴志子氏(山陽病院)がつとめ、清水徳人氏(まつおかクリニック)、木下琢実氏(倉敷成人病センター)、岩野晃明氏(徳島健生病院)、野村美由紀氏(NTT東日本伊豆病院)の4名が講演とディスカッションを行った。女性スタッフが検査を担当できる状況であれば、女性スタッフが対応する施設もあれば、マンパワー不足により男性スタッフが対応している施設もある。「男性スタッフが肛門へのカテーテル挿入を行う際は黙視して挿入することを心がけている」と清水氏は述べ、併せて被検者への声掛けを行いコミュニケーションも重要視しているという。野村氏は看護師の視点から同院での経験をもとに大腸CT検査の受容性を高めるポイントとして、検査前に十分な説明を行うことや、検査後には速やかにトイレへ誘導し特に女性被検者に対してはレディースエリアのトイレへ案内するなどの工夫を挙げた。

 最後に、永田氏より閉会の挨拶とともに第12回消化管先進画像診断研究会の開催についても発表された。次回は金沢にて2018年3月11日に開催される。
 

会場の広島市文化交流会館

 

  会場風景

 

  機器展示